研究のコツ!

学生の皆さんへ

研究って楽しいですか?研究のコツについて話します。

「楽しもう!」まず、研究を進める上ではその楽しさを思う存分味わって下さい。私が、研究って面白いな~と思った最初は、自分が作ったプログラムがうまく動いた時です。修士の時RNAの立体構造予測のプログラムを作製していた時に感じました。座標変換や遺伝的アルゴリズムが、自分が思ったように動いてくれただけで楽しかったです。また、そうしたプログラムを書く時に、徹夜でプログラムのデザインをして、その後一気に書きまくるのは、自分でもかっこいいなと自身に陶酔してました。誰も認めてくれる段階ではなかったのですがとても楽しかったです。

「例外に気づけ!」次は発見についてです。マルセイユでのポスドクをやってた頃、何か面白い発見がないかな~と色々と試行錯誤していました。毎日、こつこつとゲノムのマニュアルアノテーションも進めていました。1000個以上の遺伝子を一つ一つ解析していました。帰るのはいつも終バスでした。アノテーションシステムも自分で作りました。でも、なかなかいい発見に出会いません。仮説を色々立てて解析していたのですが、中々思ったような結果は出ていませんでした。そんな時、ふと画面をみているといつもと違う例外的な配列類似性のパターンに出会いました。解析しているうちに、自分でもドキドキしてきました。クリスマスまじかのシーズンでしたが、集中して仕事を進めて結果をまとめて当時のボスに見せて、ボスも興味を持ってくれました。その後、その結果がScienceの論文となり、以降、私にとっては順風満帆な若き研究者時代が始まりました。データを良く見て、パターンとして頭に定着させてモデルとして消化する。この作業が重要です。これが例外発見の準備です。パスツールも言ってましたが、心の準備が発見には必要です。心の準備とは、モデル構築です。そういう準備をしている人こそ、例外にいち早く気づく!それが研究の一つのやり方だと思います。

「観察が重要」例外に気づくことも重要ですが、まずはやはり、観察です。データを丹念に見ることです。実験やフィールド研究者なら、言葉の通り顕微鏡による「観察」、フィールド調査による「観察」が言うまでもなく重要です。近年、技術の進歩によってデータ至上主義みたいなところがあります。データを出せば成果と勘違いすることです。しかし、バイオインフォマティクスのような大規模計算科学の分野でもデータを一つ一つ目で見ることがとても大事です。「最後は目で見る!」これは私の恩師の金久實先生の名言ですが、私もその通りだと思っています。

「まねよう!」論文を書く時は、なかなか苦労します。多くの人がそうでしょう。でもこれは、みんな、あまり心配する必要ないです。この世の中にはモデルとなる論文が沢山あります。そこからフレーズを盗んだり、まねたりしたらいいのです。英語を母国語としていない我々にはなおさらです。研究者は、英語を母国語としている人は意外と少なく、フランス人だって、ドイツ人だって、みんなそれなりに苦労してます。日本語の文章を書く時だって、漱石や龍之介風の文章にしてみようかなと思ったりしているうちに、文章のリズムのインスピレーションが湧いたりします。もちろん、真の作家はもっと真のオリジナリティーがあると思いますが。科学者は書きっぷりはまねても、データは自分自身のものであればいいのです。

「売りを一つ見つける」また、すでに発表された論文について、なぜこの研究は論文になったのか?という分析力が重要です。良い論文にはたいてい一つ売りがあります。その売りをどう売っているのかを、論文を丁寧に読んで、分析して咀嚼しましょう。よくよく読むと、意外と弱い基盤に立っている論文も結構あるのに気づくと思います。大したことないのです。人がやっていることは。でも、一応の建前は通していますね。そんな論文を目指してはだめで、やっぱり、誰がどう見ても素晴らしい研究結果を示すのが本道でしょう。でも、自分のやっていることの意義と土台を丁寧に説明することには時間を費やして下さい。そして、自分の論文の売りを一つ見つけて下さい。その際に、先達にみならうのはいいことです。皆そうやって論文化しているのです。その結果が、現在発表されている膨大な論文の山ですが、その月にも届くような大きな山に、あなたの研究で美しい一輪の花を咲かせてみませんか?「売りは一つ」、一輪の方が二つや三つよりもいいです。分かりやすいからです。素晴しい研究ほど、メッセージは一つです。一輪が科学では好まれるのです。

「科学議論をする」研究は一人でやることもあるかと思いますが、お金のかかる研究はしばしば大勢で行います。大勢で取り組むことにより、一人ではできないようなスケールの大きな凄い研究ができるので、そこに研究資金もつくからです。そうした環境に入ったならば、他人とたくさん「科学議論をして下さい」。研究者は皆、科学が大好きです。自分の意見や思想をぶつけてみてはいかがでしょうか?そして相手の考えを慎重に吟味してみましょう。我々が参加しているTara Oceansのプロジェクトがまさにそのような議論を経て進んでいます。こうした道程で、自分一人では切り開けなかった新しい研究の扉が開いたりします。いつも勇気を出して科学の議論をしよう!

「研究しながら勉強する」自分がまだ研究の準備が整っていないと気づくことも多いかも知れません。しかし、研究とは「研究しながら勉強する。勉強しながら研究する。」という側面があります。完璧な準備などしている間にも、競争相手はどんどん(準備すらできていないのに)興味深い成果を出してきます。勉強不足を恐れないで、どんどん研究して下さい。論文の査読が帰ってくると、色々批判があり「こんな先行研究知らなかったよ~」とか「参ったな~、厳しいな~、勉強不足だったな~」という時もあります。しかし、批判に応える努力の中で、新しい発見やより良い理解に巡り会ったりします。また、実験結果が全て出た後、それを既存の論文に照らし合わせているうちに、新しい興味深い解釈が見つかることもしばしばあります。私は、そんなとき、つまり四苦八苦して論文のイントロやディスカッションを書いている時にこそ、自分がクリエイティブだな~と感じ、科学活動の本当の面白さを味わっています。研究すること自体が勉強みたいなものです。知らないことを恐れずに研究に邁進してみてはいかがでしょうか。

「謙虚に」科学をする上では謙虚になるのが、当たり前なのですが重要です。データや自然は嘘をつかないので、美しいです。嘘は、いやですね。データが思った通りにならなかったら、それは自分の頭が間違えていたか、あるいは実験や解析操作に思いもよらないミスがあったか、そんなところです。自然に対して、結果に対して謙虚に対峙する。そうすることで、その奥に隠された真理が見えるかも知れません。謙虚さは科学をするにあたって必須な要素です。

「継続は力だ」研究のコツとして、持続もあります。スポーツ選手は、1日休んだら、その前の状態を取り戻すのに3日必要で、10日休んだら、1か月必要と言われます。本当にそうなのだと思います。科学も全く同じです。科学だって、1日休めば3日取り戻すのに時間がかかります。ウィークエンドに二日、研究のことを全く考えなければ、そんな人はなかなか研究が進みません。平日に数日手を動かしているだけではだめなのです。科学の問題は良い問題ほど単純ですが、解に辿り着く道のりはしばしば複雑です。できるだけ問題や解法を単純化するのが科学の妙ですが、それでも、考えるべき要素が多いのが常です。それら多数の要素を分析して統合し、俯瞰的な判断を下すには、かなりの集中力が必要です。ノーベル賞を受けた湯川秀樹ですら、いつも枕元にノートを置いて、思いついたことをメモしていたそうですね。あっというまに頭から消えてしまうようなアイディアこそが最も重要です。そんなアイディアがこそ他人が簡単には思いつかないものだからです。そういう意味で、週末に遊んでいる時も、研究のことを一時も忘れないくらいのやる気は必要です。遊んでばかりいても研究が進むなど妄想です。研究者はゆとりを見せて相手を油断させるのも仕事ですので騙されないように。コツという観点からは、アイディアやまとめを常にメモ化するのが有効です。

「夢を大切に!」皆さん、科学を始めた以上、何か、きっかけとなるような動機がありますよね。それは、きっと純粋で美しい動機です。私は、アインシュタインやダーウィンのように世界や自然界をもっと良くはっきりと分かりたい、そんな思いを明確に情熱をもって高校生の頃に抱きました。そして、そうした偉人の境地というか理解度に少しでも近づきたい、そんなところです。どんな動機でもいいのです。それを大切にして下さい。科学の行為には困難がつきもので、苦しいです。しかし、それを乗り越えるパワーは、最初の動機やインセンティブです。初恋と同じです!

緒方